PLASの現地活動ウガンダプロジェクト-RISE現地レポート

「誰の課題をどう解決する?」ウガンダの新パートナー団体と描く中期ビジョン

ウガンダのNGO「GIBEH(Girl Child Health And Education)」(以下ギバー)は、脆弱な立場に置かれた女の子や子どもたちの支援をつづけている現地パートナー団体の1つです。

今回は、2024年3月にPLASとギバーで取り組んだ「中期ビジョンワークショップ」の様子をお届けします。

中期ビジョンとは?現地パートナー団体とつくる理由

NGOはそれぞれの団体が目指す社会像(ビジョン)を掲げて活動しています。

例えばPLASは、「取り残された子どもたちが前向きに生きられる社会を目指す」。
これは短い期間での実現は難しい、大きくて壮大なゴールです。

一方で、中期ビジョンは3~5年程度で実現したいことを描きます(*1)。
今回の渡航では、組織の枠を越え、ギバーとPLASで共有の中期ビジョンをつくるために、1日かけてワークショップを行いました。

共通の中期ビジョンをつくる理由は、ある課題感から出発しています。
それは、「パートナー団体と個々の事業は成り立っているが、各事業を貫くゴール像が明文化・共有されてなく、“何をいつまでに目指すのか”という大局的な視点で協働する難しさ」でした。

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*1  団体や取り組む課題によって時間軸は異なります。

人を中心に考える「セオリーオブチェンジ」

そこで、PLASでは2017年から、各パートナー団体との中期ビジョンをともにつくるプロセスに挑戦しています。

その際に活用する考え方が、「セオリーオブチェンジ(Theory of Change; TOC)」というもの。

セオリーオブチェンジでは、「どのように変化が起き、自分たちがどのようにその変化に貢献・影響できるかを説明した理論・システム」とされ(*2)、Real Change for Real People(現実の人間の実際の変化)という考えを重視します。

そのため、パートナー団体とのワークショップでは、私たちが支援を届ける子どもたちの現状を1人の架空の子どもに落とし込み、名前や日々の暮らし、そこで直面する課題とその原因、解決アプローチを4つのステップで丁寧にディスカッションしていきます。

支援を届ける子どもたちの課題を整理し、課題が解決されることでの理想的な状態を書き出していく

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*2 セオリーオブチェンジには複数の定義があるが、PLASではINTRAC(the International NGO Training and Research Centre、NPO 等の市民社会の組織強化を進めている英国の法人)の定義を参照している。

ステップ1:誰の課題を解決するのか

まずは、ギバーとPLASの協働を通して「誰」の「どんな課題」を解決したいのかポストイットに出していきます。

PLASが支援するのは「取り残された子どもたち」で、ギバーが支援するのは「脆弱な立場に置かれた女の子と女性」であることを確認。今回のワークでは、2つの団体の共通項として「脆弱な立場に置かれた子どもたち」とし、彼女・彼らがどのような課題に直面しているか整理していきます。

PLASは、これまで活動してきたウガンダの各地域で、また、ギバーは活動地であるムコノ県・ワキソ県で直面した課題を付箋に列挙していくのですが、50枚ほどの付箋があっという間に出されました。
日々、地域の子どもたちに寄り添って活動しているギバーからは、さまざまなエピソードが出てきました。

  • 【貧困】家庭の経済的な困窮、学校の中退、世代間の貧困連鎖
  • 【SRHR(*3)】早期結婚、若年妊娠、正しい性の知識にアクセスできない
  • 【親子関係】親と子どもが良い関係を築けない、DV、HIV、虐待、育児放棄
  • 【教育環境】劣悪な学校環境、家から学校が遠い
  • 【社会・ジェンダー問題】女生徒への性的暴力・いやがらせ、ジェンダーによる教育不平等
活動のなかで直面してきた子どもたちの課題を出し合う

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*3  SRHRとはSexual and Reproductive Health and Right(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)の頭文字をとったもので、性と生殖に関する健康と権利と日本語では訳されます。
SRHRは、誰もが性や生殖に関する権利をもち、その権利が尊重されるべきであるという概念です。

ステップ2:課題が取り除かれたとき、子どもたちがどのような状態に変わるか

次に、2つのディスカッションをしました。

(1)課題がどのような障壁となって子どもたちに影響を与えているか
(2)それが取り除かれたときにどのような状態になるか

これらから、支援を届ける子どもたちの「理想的な変化(ビジョン・オブ・サクセス)」を描き出します。

例えば、保護者の経済的な困窮という課題があるとします。
それにより子どもが学校を中退する、将来を計画できないといった障壁が生まれます。
それらが取り除かれると、子どもは就学を続けて自らの意思で将来を選択していくー。

こうした「理想的な変化像」を中期ビジョンとしてパートナー団体と共有することで、個々の事業が中期的なゴール像にどう貢献していくかという視点から立案できるのです。

今回のワークショップでは、「脆弱な子どもたちが適切な教育とキャリアサポートやSRHR向上を含めたカウンセリングにアクセスすることで、より良い人生を歩むことができる」というビジョン・オブ・サクセスが生まれました。

ギバーとPLASで議論を重ね、ゴール像を文字に落とし込む

ステップ3:大きな影響を与えるステークホルダー(利害関係者)は誰か

さらに、子どもたちの変化に影響を与える利害関係者(ステークホルダー)を洗い出します。

セオリーオブチェンジの考え方では、学校、医療機関、行政など、支援を届ける対象者に強く影響する存在を「ドライバー」と呼びます。
てこの原理と同じで、どのドライバーへの働きかけ・協働によって効果的な変化が起きるのか、ギバーと議論していきます。

その後、個人・地域・社会の3つの層で、それぞれのドライバーを整理しました。これまでギバーとPLASが連携したことがあるドライバーに赤丸を、アプローチしたことがないけれども、これから連携したいドライバーに青丸を、潜在的な反対者に紫色の丸をつけました。

個人レベルで連携したことがあるドライバーが多い半面、社会のレベルになるにつれて減り、「アプローチしたいけど現時点ではない」が増えていきました。

PLASとのパートナーシップを通して、「ウガンダ国内の企業や、子どもに関する問題を扱う行政組織と連携したり、社会の制度や枠組みに影響を与えられる中央行政にもアプローチしたい!」と話すギバーが頼もしく感じました。

I(個人)、We(地域)と社会の3つの層で、課題解決のために連携できるステークホルダーを列挙する

ステップ4:パートナー団体とPLASの強みは何か

最後は、パートナー団体とPLASそれぞれの強みを出し合います。
今回は時間の関係でギバーの強みを双方で挙げていくことに。一例をご紹介すると、

  • 学校やコミュニティに深く関わっている
  • SHRHの専門性がある
  • ギバー代表は弁護士でもあり、法と現実とのギャップを見極められる
  • カウンセリングの博士号を持っているスタッフがいる
  • ITスキルが高い
  • 若い団体で情熱と可能性がある
  • メンバー間の関係性がフラット

この他にもたくさんの強みが出されました。

ワークショップを終えて、「ギバーとPLASで協働していく未来が楽しみ」「学びが多い1日だった」という声があがりました。

事業地の村で活動するギバーのメンバーたち。

管理ではなく、創造を

今回のワークショップで活用したセオリーオブチェンジは、事業で何を実施し、どのようにプロジェクト管理できるかという発想ではなく、対象となる地域や人びとの具体的な変化を起点とし、個人やその社会関係を具体的に見ることで、より効果的に変化が起きる働きかけを考えます。

複雑なストーリーを効果的に表現でき、活動に関係するステークホルダーと目指すべき方向・変化について協議・共有できるのが良い点でもあります。

PLASがつくった中期ビジョンをパートナー団体に「はい、これです!」と渡すのは簡単かもしれません。それでも、じっくり時間をかけて双方でときにぶつかりながら1つのビジョンをつくるプロセスそのものに価値があると私たちは考えています。

休憩時間のひとこま。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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どうぞよろしくお願いいたします。